形而上学的宿酔

朝出発、宿酔レベル3。吉幾三さんの「雪国」を口ずさみながら自転車を走らせ職場に到着。同じく宿酔のT君と、丸めた雪を投げ合う。というより、どちらかが投げる雪球を、もう一方が棒で打つという、つまり野球ボールの代わりに、という遊び。雪球の水分が多く、うまく打つことができても、顔や身体に冷たい飛沫を受けるだけであった。しかしそれは、水分の少ない雪球でも同じことなんじゃないだろうか。なんだこれは。後、社長が出社してきたので元気よく挨拶し、二階へ上がった彼の姿を確認してから、T君と私は、社長の車に雪球を投げつける。「べつに彼のこと、嫌いになったわけじゃないんだけどねぇ」などと言い、ふざけながら、いくつもの雪球を彼の車にぶつける。私は心のなかで、「これが社長に見つかって、クビにでもなったら面白いだろうなあ」と思っていた。なぜなら解雇されたあと、再就職先の面接で、「斉藤さん。前の会社では、どのような経緯で解雇されるに至ったのですか?」というよくある問いに、
「いっやー、ぼく、雪の球をですね……」
「雪の球?」
「ええ、ほら、雪合戦とかそうゆうやつで、こう、にぎって丸めては投げる!にぎって固めては投げる!みたいな」
「といいますと?」
「といいますと、といいますと?」
「ちょっと斉藤さんね、いいんですか?仕事、さがしてるんじゃないんですか?」
「実はそうでもないんですよねぇ。よろしい、ではあなた方に、なぜぼくがクビになったのかをお話しましょう。それでいいですか?」
「…………」
「わかりました。言葉など無力です、とそう言いたいわけですね?わかりますよ、ええ、よーくわかりますよぉ?ぼくもねぇ、うふっ、若い頃はそーだったんだから。ほんとほんと、みーんなと一緒、だからそう、よーく、わかりますよぉ?」
「…………」
「ま、やだ、この人たち。もう、こわい顔しちゃって!」
「…………」
「もうたーいへんだったのよー、うん、彼の車にね?いや、社長さんの車にね?雪の球を、ぼんぼんぼんぼん投げつけてねぇ、キャー、なんて言っちゃってさぁ。うん、それでコレよ」と言って私は、右の手刀で自分の首を、しゅっしゅっしゅっ、と斬るような所作をして見せた。




夜、麦酒、ミンチカツ、米飯少し。後、カフィー、菓子ィー。蹴球の試合をテレビで見たが、ルールを知らないのだからつまらないことこのうえなし。深更、ウイスキー、音楽鑑賞、泥。