午前、浅草。私は週に一、二度、七年間に渡りこの界隈を訪れている。哀しいことに、その大半は仕事で、である。よって、浅草で遊んだぜ、という記憶はあまりないのだが、いずれにしても、この街の印象というのが、私のなかで固定化されているのである。それは「いつも、どんよりと曇っている」。本日もまた然り、もはや慣れきって何の思いもなく、ただ淡々と仕事をこなしていたのだが、ふと、あることを思い出した。

2006年、3月某日。梅雨さながらの春の長雨が続いていた。この日も、灰色の曇天から今にも雨粒が落ちてきそうな空模様であった。浅草Vホテル内の、結婚披露宴会場、白い布の掛かった丸いテーブルを囲む人たち、私もその一人であった。やがて照明が落とされ、会場内に甘い感じの音楽が鳴り響く。と、頭上から二筋の光線、つられて、その行方に目を遣れば、西洋風の衣装を着けた、まるで見覚えのない一組の男女、にこやかに登場――。

この、いわゆる「模擬披露宴」を体験、当日、いつものごとく宿酔であった私は、どうもこの新興宗教の勧誘イベントのような時間に耐えられず、「模擬キャンドルサービス」に移行する直前に会場を抜け出し、エレベーターで1階、ロビーまで降り、駆け足で外へ出て「国際通り」路傍、うなだれる。側溝に、歪んだS字を描きつつ、流れ込む水の眩しさが、私の眼を射る。ハッとして見上げると、数日来の悪天候、嘘の如きに破れたる、空の裂け目と雲間より、見よ、光が、光が。あゝ金色の、あれは後光か――。その後、晴天。まるで夏のような暑さ。太陽。後にも先にも、浅草で太陽を見たのはこの日だけなんじゃないか?


夜、麦酒、きのこそば、巻き寿司を食う。この席で、家人に上記のことを話すと「そんなことあったっけ?」。つまり、イリュージョンなんだな。深更、ウイスキー、D酔。わが2006年の出来事については、いつか書くつもり。代理戦争。