渇き

11時起、飲み過ぎによる喉の渇きか、目覚める直前、妙な夢をみる。なだらかな丘に建つ西洋風の宿、広大な裏庭を擁しその一帯に芝生、所々、あれは梅だろうか、桜だろうか、樹下に幼児用、原色ばかりの三輪車、ゴム毬は黄、そして井戸。女が私の手をとり「水を飲もう」と云ふ。大きな窓ガラス越しにその井戸を見たり。赤錆を過ぎ苔生す、無残の美、聖杯とはどういうものか、知らぬが、魚の如き青銅色の、紋様しごく不可思議な、時代おくれの容れものに、なみなみ注がれたその水は、鏡の如く私を見たり。飲む、飲む、飲む。飲め、飲め。そして私を忘れなさい。やがて「氾濫」、紙に書く。朝が終わるのを、私は見ないふりをする、暮らしぶりメチャクチャ。「では夜は」と女が問へば、駅のホームに立ちつくし、スタンドそば屋のだし汁の、香る匂いをサヨナラと、引き戻されるアスファルト、春の魔法か過ちか、書棚の文字が、霞むばかりのうしろ姿、春はよいなあ、春はよいなあ・・・・・・。

目覚めると宿酔、レベル2。飯を炊く匂いがする。おれは自分を撃った。死ななかった。だから、ゆっくり上体を起こし、女に、「のどが渇いた」と言った。