芋家

午後、南UW駅周辺を走行。二十代前半の頃よく出ていたライブハウス「PH」のまえを通る。「PH」の名はそのままだが、現在はおもに「結婚式の二次会パーティー」の会場として営業しているのだとか。

地下へおりる細く急な階段、ウッドベース、壁という壁にベタベタと貼られたライブ告知のチラシやポスター、メンバー募集。逆リハ。演奏を始めた「対バン」の連中が、みな天才に思えてくる。それは大げさでも、連中、いかにも場慣れしている感じ。店のスタッフ、音響スタッフの奴らと名前で呼びあい、笑いあい、「〇〇ちゃーん、ベードラもうちょっと返してくれるー?」。バカかお前は。プロ志向かお前は。南浦和だぞここは。と思っていると、リハの順番が来て、我々は舞台に上がった。

リハを終えた連中、メシでも食いに行きゃあいいのに、じーっと我々のリハを見物。「恥ずかしいから見るな!去れ!」とも言えず、こちらは音のチェック。しかし我々は、そんなものにはこだわらねぇ。演奏の巧拙なんてどうだっていい。それがロックというものだよ!だぜ!の心意気。すなわち虚勢。本当は、緊張感、劣等感を隠すのに必死なのである。そして我々は、「リハーサル」であるにもかかわらず、メチャクチャやるのであった――。

と、いろいろ回想しているうちに陽が傾きはじめる。あの頃であれば本番前は怖くて怖くて、「PH」の向かいにある酒屋の自販機で缶ビールを買っている時間だろう。日が長くなった。そんなことを、当時の私も思っただろうか。