流浪の民

夕刻7時、北千住駅前でAさんと落ちあう。酒を飲むためである。とにかくこの街には飲食店が多く、古くからの店と、新たに開店したとおぼしき店とがひしめき合い、私のような酒飲みは、どの店にも興味をそそられる。そそられるが、店選びは毎度のことながら、すべてAさんに任せている。私はAさんの店選びのセンスに、全幅の信頼をおいているからである。といっても、一軒目さえ決まれば、そこでほろりと酔い、店を出ればあとは風まかせ、歩きつつ、「お、」と感じる店があれば、迷うことなく入店する。

気がつくと私たちは、四軒目、「昭和サロン」とかなんとかいう、かなり怪しげな店で麦酒を飲んでいた。麦酒を注いでくれるのは、おそらく70歳は過ぎているだろう婆さん。来たるべき高齢化社会がこんなところにも。店主らしき男は、新宗教の幹部のような、ただならぬ雰囲気。私「焼酎ある?」「いやウチ、焼酎ないんですよ」「じゃウイスキーを」「ウイスキーウイスキーですか・・・・・・いま買いに行かせてるんですよ」「なんか音楽かけてよ」「カラオケだったらありますけど――」。「ヤバそうな店だなー、やだなー、怖いなー」と思いつつ飲んでいたが、はしご酒の醍醐味は、そういうところにあるのではなかろうか。

店を出た私とAさんは、「凄まじい店に入っちゃたなー」などと大笑いしながら歩き、互いの無事を喜び合った。