トマト!

千駄木から草加に戻ってきたのは、日付が変わる頃であった。タクミンを呼び出し「夢Y」にて飲む。初鰹、桜鯛の刺身、あら煮大根を肴に日本酒。われわれに盃など無用、麦酒のコップ持ってこい。G飲、批判、どスケベ談、かなり酩酊。といっても、私だけがよく喋り、酔っぱらっていたのではあるまいか。つまり、このころから、断片的な記憶しかない。

「夢Y」を出たのは、5時頃だったか。気がつくと、カラオケ店の一室でウイスキー飲みつつ昭和歌謡を熱唱。タクミンとAさんの歌唱に感動したのを憶えているが、具体的に、どういうところに感動したのかは憶えていない。本物の感動とは、けだしこういうものなのではありますまいか。そうではござらぬか、皆々さま。

カラオケ店を出ると、私はある決断を下す。「仕事いくのヤメタ。今日は休む」。なぜなら、朝の7時だからである。働けるわけないだろ。だから、というのも変だが、ぐにゃぐにゃの状態で、Aさん宅に向かう。通勤通学ラッシュ時の混雑する駅構内を、Aさんに支えられつつ歩くのがやっと、階段やホームにへたりこむ、這う、転げるなどしていると、通勤通学の人々が、もの凄くイヤな目つきで私を見下しながら、早い足どりで通り過ぎてゆく。無数の靴音、構内アナウンス、円柱、沈没。Aさんは定めし恥ずかしかっただろうと思う。