女丈夫

夜、わさび味の柿の種をつまみにビール飲みつつ会議。議題は「里帰り出産について」である。順調にいけば出産予定日は12月某日だから、家人は広島の実家に、10月中旬ごろ帰る予定であった。しかし昨日の検診で、医者にこんなことを言われたのだという。「広島で産みたいのなら、なるべく早く、数日中にでも行きなさい。あと2センチ産道が開いたら、広島行きを断念せざるを得ないばかりか、即刻入院、ということになるよ」と。じつに生々しい話である。


「で、おまえはなんて答えたんだい?」
「『わかりました、すぐ広島に行きます』つって、紹介状もらってきたよ」
「そうだな。にしても数日中たぁ、またえらく急だねえ。強く出たねえ。で、いつ発つんだい?」
「18日なんかどうかな、土曜だし」
「18日か。おいおい、ずいぶんノンキなこと言ってるじゃねえか。さっさとお行きよ」
「15日、職安の最終日なんだよねえ。それさえ行けば、結構もらえるんだよ」
「金か」
「うん」
「そんなこと言ったっておまえ、医者がすぐ行けってんだから、そりゃ行くもんだよ」
「結構もらえるんだけど」
「たかが知れてんだろうよそんなもん。悪いこたぁ言わねえから、な?ちったぁてめえの立場、そして何より、腹ンなかの赤――」
「40万くらいかな」
「ン?ン?・・・・・・」
「そのお金で、いろいろ赤ちゃんのものとか買おうと思ってんだよね」
「・・・・・・・・・・」


――結局、この日の議論は平行線のままであった。というと聞こえはいいが、このところ、どうも家人には押され気味であり、なんというか“三対一”の劣勢で議論しているような錯覚を起こすのである。