風紀指導2

そして家人は、一冊のノートを私に託した。そのノートは、そこに名前を書かれた人間が死ぬ、というノートではなく、各種支払いの方法や料理レシピ、洗濯機、炊飯器、電子レンジの使用法、緊急時の連絡先などが記された、謂わば虎の巻である。余命わずかな妻が、そんなノートや手紙の類を夫に託す。或いは夫が、妻の亡きあと、ふとしたことからそんなノートを見つけ、涙を流しながらページをめくる。なぞ云う、テレビドラマや映画でよく見かける感動のワンシーンを思い出させもしたが、私に託されたノートは、そういうものとはまるで性質の異なる、やたらメッセージ性の強い内容であった。まあ、それも当然と云えば当然なのだが。