ぼんちゃんのジングルベル

京都あたりでは僧侶(お坊さん)のことを「ぼんさん」と呼ぶらしいのだが、ここ埼玉では「ぼんさん」といえば、私のことである。それは大袈裟だろう。


19時帰宅。入浴後、炊飯のセットしてから洗濯、買物にゆく。このところ天気の良くない日が続いたので、洗濯物が溜まりに溜まっている。予報によると明日の天気は良とのことだから、明日、もういちど洗濯しなければなるまい。それほど溜まっているのだ。


〇エツで買物。終えて車に戻り、買ったものを後部座席に突っ込んでいるとどこかで、「ぼんちゃーん」と私を呼ぶ声がする。まったく聞き覚えのない、女の声であった。


私のことを「ぼんちゃん」或いは「斉藤くん」と呼ぶのは06年までに知り合った者たちで、またどういうわけか07年からは殆どの者が「ぼんさん」であることから、これは昔の、ひょっとするとヤバイ女かもしれぬ、との思いが脳裡を走り、一先ずは聞こえてないふりにて様子を窺うことにした。それは相手が女に限らず、私がよく用いる戦術というかポーズなのである。すると今度は、「ぼーん」などと、思いもよらぬ極めて親しげな呼び方をするのである。


私は驚いて顔を上げ、声のほうを見ると、二台向こうの車の横で、私と同じように後部座席のドアをあけ頭を突っ込み、何かしている女があった。どうやら、私を呼んだのではないらしい。女の車はいわゆる“スモークガラス”だったので、車内の様子を知ることはできなかったが、よく見ると、後部座席におおきな犬がいるようであった。なぜそれが犬だと判ったのかといえば、「ワン」と鳴く声が、私の耳にも届いたからである。