クイズ王への道

朝出発。


酒クサイのが自分でも判るくらいだから昨夜もたくさん飲んだのであろう。そりゃそうさ。アリャサのサッサで缶チューハイを3本、白葡萄酒をボトル半分、それから日本酒に切りかえた頃には、どういうわけかゴダイゴの名曲「ガンダーラ」をリピート再生し、もちろん歌い、オリジナルの変な振り付け(アジアン・テイスト)をして踊り、気がつきゃ一升近く飲んでいたのだからなあ。そしてその後、よせばいいのに麦焼酎を4、5杯。ところで、なんでそんな馬鹿みたいに飲むのかといえば、それは俺が馬鹿だからである。キッパリ。


そんな昨夜の、愚行のいくつかを回想しつつ職場に到着した俺、いつもと同じ、駐輪場にて煙草をふかしていると上司がやってきて、「最近、ずいぶん遅刻が多いな。今月おまえ、何回遅刻したか知ってるか?」と、きわめて冷静な顔でクイズなんか出してくるのである。まったく朝っぱらからクイズかよ。そんなこと知るかっ、と即答しかけたけれども、早押しクイズではなさそうだから、俺はじっくり考えたのち、「わっかんないなあ・・・・・・うーん。な、何回ですかぁ?」などと、満面の笑みと苦笑の、ちょうど半ばくらいの表情でもって返すと、出題者である上司は、みるみるうちにその表情を憤怒の色に変え「6回、6回だよっ!気をつけろよ!」と声を荒げて俺を睨みつけ、俺の前から立ち去ったのであった――。


クイズ王の俺でも、それはなかなかの難問奇問であった。というのも、自分が月に何回遅刻したか憶えてるヤツなんていないだろうし、仮にそういうヤツがいるとしたら、そいつは遅刻したことをいちいちメモ帳やら日記につけているようなタイプのヤツだ。つまりそんなヤツは、はなから遅刻などしない、社会的責任のある、真面目で、帰宅すれば、分厚くちょっと硬めのソファーかなんかに「ああっ」てなこといって腰をおろす喜びを知っているような、すなわち“都会的”な人間なのである。要するに俺とは住む世界が違う人間なのだ。どういうことかというと俺は昔、両親(特に母親)に「仕事でも遊びでもネ、遅刻するなんてのは田舎もんのすることだよ」と、よく言い聞かされて育てられたからだといえる。だが、当時はその言葉の意味が理解できずにいた。しかしこうして歳をとってみると、それも或いはそうかもしれぬ、と感ぜざるを得ないのである。なぜなら俺は、身も心も、絵に描いたような田舎者であるからだ。但し、その“教育法”が適切であったかということについては、未だ首をかしげる部分もあるにはあるけどな。


とにかく俺、「月に6回」というのはセックスに置きかえて考えてみるとかなり多いように思うけんども(※回数には個人差があります)、遅刻の6回なんてものァ、どっちかっつーと少ないほうの部類に入るのではあるまいか。――そんなことを今、草加駅伝言板に俺、書いているところだ――。