メデタイの森(上)

日中台場、大汗。


夕刻六時に仕事を終えた私は、慌しく職場を後にして「アカイワ」へと自転車を走らせた。「アカイワ」は、私がかれこれ十年余に亘って通いつづけている理髪店である。――と、こういう書き出しはわれながら古臭いと思う。思うけれども、好きなんだから仕様があるまい――。


このところすっかり寒くなった。それに伴い日が短くなるのもまた自然、夕刻とは云へども、あたりは黒く冷たい闇に覆われた冬の夜である。――と、こういう文章は自己陶酔の極みによる駄文に他ならないが、好きなんだから仕様があるめえ――。


そんなふうにして、己の文章に謂わば自負と自虐と韜晦とを織り込みながら書き進めるうちに、不意と「私は一体、何を書かんとしていたのであろうか?」なぞ云うことに直面したのだからたまらない。つまりそれは、己の無能に対する一種の“甘え”であることに過ぎないからである。


それでも唯一の救いは、私がフランス人の女みたような髪型になったと云う点である。それではあまりにも説明不足なのではあるまいかと云うことになるけれども、早い話、私の持っているイマージュでは、ちょっと危ない感じのフランス女は概ね“超ショートカット”と云うことになっている。――先日みつけたフランスのエロ動画に御出演なさっておられたジェンヌもそうであった――。つまり私は、そのような女をこよなく愛す者なのである。だからと云って私が、女性に対して持っている嗜好を己に得たところでそれはまた別の話だろう、と云うことにもなるが、



――駄文の途中ですが、ええ、ここでS野君とA子さんの結婚会見が始まった模様なので、その、行われております会場、にいる記者を呼んでみたいと思います。そちらの様子はいかがでしょーう。・・・・・・・・・。はい。ちょっ、と音声が届いて、い、な、い、ようですね・・・・・・・・・え、こちらの音声は聞こえますでしょうか・・・・・・・・・はい。それでは一旦、CM、を挟みます――。